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「ヴニーさん、またですか!?」

「またじゃないっ!だだ、大丈夫、これは迷子になったわけじゃなくて…えっと…そ、そうだ!冒険…冒険してるだけなのだよ!」

少々呆れ顔を見せながら、その船の船員は目の前に居る少女に言う。
その少女は、誤魔化すように大丈夫と言った。少し焦りも見えるが…。
彼女の名前はヴニー、この『草原の海』を渡る船の航海士をしている。

「ヴニーさん…仕事、大丈夫なんですか…?」

「ああ、其処は大丈夫っ!じゃないと、この仕事してらんないよ〜?まあまあ、私に任せなさいっ!」

「そこって頼って良いところなんですか…」

まあ、会話から要するに、この船は道に迷ったらしい(ヴニー曰く冒険とのこと)。
航海士がいるにも関わらず。

「でも、海賊とかにでくわさないんですかね…」

「ああ、其処は普通に本当に大丈夫。今まで海賊とかに出くわさなかったから、こうやって仕事できてるんだよ〜」

「そういえば、今まで仕事に失敗はしたことなかったという話ではありましたね…」」

その船員はそこまでヴニーの性格というか、そういうのに慣れていない、もしかしたら最近入った新入りなのだろう。
その証拠に、他の船員は構わずに各々の仕事をしている。というか、慣れないとこの仕事はしてられない気がする。

「それに、もしも海賊にあっても大丈夫、なんとかなるって」

「その確信はどこからくるんですか?」

「う〜ん、そうだね…あんまし使うことないし、使い方あんま知らないけど、私にはこの眼があるからね」

ヴニーは自分の眼を指差して言った。
船員は本当に何も知らないのか、頭に「?」を浮かべたまま、仕事に戻った。

「さてと…次に行く町は…あ、モズクワじゃん。一段落したらカーネんとこに行こうかな〜」

ヴニーは、手に持っている地図を眺めて言った。

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ここはモズクワ。
この町の広場で小さな店を営む恋愛調香師の少女がいた。
その少女の名前はカーネという。

「ん、あら、瀧山じゃない。ちゃんと採ってきてくれた?」

「まあ、依頼どおりに」

瀧山と呼ばれた男性は、調香に使う薬草などの入った袋をカーネに差し出した。
瀧山は狩人で、カーネは度々瀧山に調香の材料である薬草などを採ってきているのであった。

「いや〜いつも有り難うね。あれ?今日はなんだか量が多いわね。あ、もしかしてしーちゃんが手伝ってくれてたの?」

「まあ…森の中でたまたま会って」

しーちゃんというのは、真音という札書きの少女の事である。
瀧山とは仲が良く、時々こうして依頼を手伝っているらしい。

「手伝ってくれたなら、一緒に来てくれればよかったのに。お礼ぐらいするよ?」

「今日は、いつものあれで、町外れの墓地に行ってる」

「ああ〜…今日はそんな日だったのね。あの子が話してくれるまで、何も聞けないのだけれどね」

「…」

真音は定期的に町外れの墓地に行っている。
瀧山は何か心当たりがあるような表情をするが、カーネは事情を全く知らない。

「カーネーッ!!!」

「うわぁっ!」

突然店の扉が開いて、一人の少女がカーネに飛びついてきた。

「…ヴ、ヴニー…?」

瀧山は、その少女を見てそう言った。

「あっ、瀧山もいたんだ。やっほ〜」

「ちょ…ヴ、ヴニー…ぐ、ぐるじ…っ」

「あ…ごめんごめん、久しぶりだったからついつい…」

カーネの声でヴニーはやっとカーネを解放し、瀧山とカーネを見ていた。

「あれ、瀧山、いつも一緒に居るあの子…しーちゃんは?」

「まあ、いつものやつだよ」

瀧山はヴニーの質問に答えるが。

「…いつもの…?」

「あれ?ヴニーは知らなかったかしら?」

「うん」

「しーちゃんはまあ、町外れの墓地に行ってるから、墓参り…なのかな?」

「…多分、そんなところ」

「なるほどね〜」

カーネと瀧山は説明し、ヴニーも理解したようである。
ふと、カーネは何か気になる事があったのかヴニーに尋ねていた。

「そういえば、ヴニー、仕事はどうしたの?一段落したの?」

「うん?ああ、仕事で丁度モズクワに来たから、ついでに空いてる時間にカーネに会いに来たの」

「それ…大丈夫なの?」

「ん?う〜ん、いいんじゃない?」

「…仕事しなさい」

カーネはヴニーの頭を軽く叩いた。

「あたっ!」

「…まあ、ここら辺で凶暴な獣が居ると聞いて…。それを退治しに来た。その情報がほしい」

瀧山はヴニーを軽く無視しながら、カーネに話の続きをする。

「その話ね、確かに最近噂になっているわ。隣町から来た人も見た事あるって話よ。確か…この、町外れの墓地に出るって話だったと思うわ」

カーネは地図を広げて町外れの墓地の部分を指差す。
瀧山は少し頷き、すぐに店を出て行こうとする。が…。
ヴニーの次の一言が、ある人物の居場所を思い出させる。

「あれ?でも、そういえばしーちゃんそこに行ってるって、さっき話してたよね?」

「「あ」」

そう、今回瀧山の狩ろうとしていた獣は、丁度真音の行っている墓地に居るのだ。
しかも、凶暴な獣。

「真音…!」

「あ、私も行く!」

瀧山は急いで店を出て行く、それに続いてヴニーも店を出て行った。

「ちょっと!ヴニーあんた仕事どうするのよ!…もう、気をつけてね!二人とも!」

そして、瀧山とヴニーは、町外れの墓地へ向かったのであった。

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「今日も、相変わらず此処は人がいないし、暗いな…。さっさと用件済ませて帰ろうっと」

一方、町外れの墓地では、真音が花束を抱えて歩いていた。

「だーもうっ!こんな時間くっちゃうんなら瀧山に付きあわなきゃよかったっ!でもね…瀧山って一人にしておくと何となく危なっかしい部分もあるからなぁ…。この前なんて森の中で遭難してたヴニーを間違えて狩ろうとしてたし」

真音が花束をある人物の墓の前に置き、墓地を出ようとしたその時。

「…!?」

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『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

「この声、しーちゃんだよねっ!」

「…っ!」

瀧山と、結局此処までついてきたヴニーは、真音のと思われる叫び声を耳にしていた。

「こっちだ」

瀧山は冷静に判断し、墓地の方向へ躊躇無くむかって行った。


「「真音(しーちゃん)っっ!!!」」

「ん?瀧山にヴニー、どうしたの?」

二人が真音のもとへ辿り着いたその時には、凶暴と言われていたと思われる獣を片足で踏みつける真音の姿があった。

「へ…?」

「………」

余計な心配をしてしまっていた事に気付いた二人は、きょとんとしたり、恥ずかしくて顔を背けたりしていた。

「だって、ノロノロと倒してたら時間がもったいないじゃない。まあ、これを倒すのには本気を出さなきゃだったけど。ほら、二人とも」

真音は突然二人の手を引っ張る。

「へ?何?しーちゃん」

「何って帰るのよ!あたしの用も終わったし」

真音は二人の手をひいてはや歩きをする。

「それに、二人に少し心配かけちゃったし…」

「…俺達だけじゃない、カーネも心配してたぞ」

「…だからっ!今夜はあたしがおごってあげる!なんなら作るわよ!これで貸し借りはなしね!」

真音は二人から顔をそむけながら言う。

「へえ、しーちゃんの手料理かあ〜食べた事無いな〜」

「ふ〜ん、真音も手料理作るようになったのか〜」

「ちょっと二人とも何よ!もう、帰るわよっ!」

三人は町外れの墓地を後にした。


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次回予告
ヴニー「はーいどうも!次回予告担当のヴニーだよ!次回の主役は枯葉と秋斗!二人の言霊師が繰り広げるちょっとした冒険とは?次回もまた見てね!」

Written by sinne



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