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「はあ…」
ナヅキは悩んでいた。
目の前にいる彼…瀧山が間違えてナヅキと共に居る幻獣をとらえないようにする術を。
このようなことは今までに何度も考えた。そして何度も行動に移してみたりもした。
ただ、そのちっぽけな行動ひとつで瀧山の癖は治るはずもなく…。
結局はナヅキのとっていた対策は何一つ役に立たなかったのだ。
周囲に細心の注意を払っても、瀧山が来ないであろう時間を目指してきても、他の仲間と一緒にいても。
瀧山はどうしてもいて、どうしてもナヅキの幻獣をとらえるのだ。
「もうこりごりよ…。そうでしょ?バーン君、スーさんも」
そうだと頷くようにナヅキの傍らにいたワイバーンとペガサスは声を鳴らした。
きっとかれらも瀧山の癖はどうにもできないと思っているのかもしれない。
それほどまでに瀧山に会う確率が高いのだ。
「あ、ナヅキさん」
「あら、夢來じゃない。珍しいわね、こんなところに」
ここは森の中、普段は家に籠ってお菓子作りをしているか街で買い物をしているような夢來がこのような森の中にいるのはナヅキにとってはとても珍しい事だったのだ。
夢來は籠に抱えた木の実をじっくり見ていた。
「もしかして…それ、お菓子に使うの?」
「はい。季節のお菓子を作るには、季節にあった木の実も必要かなって」
夢來は色とりどりの木の実を厳選して割れていたりするものは別の籠に移していた。
もしかしたら形がいいものはトッピングに使うつもりなのかもしれない。
ナヅキがそれを見つめていたらつい、おなかがグゥーとなる音がした。
「?」
夢來が顔を上げると、そこにはそっぽを向いているナヅキがいた。しかも少し顔が赤い。照れているのかもしれない。
もしかして、と夢來は籠の中に入っていた木の実をいくつかナヅキの前に持ってくる。
「え、ええと…夢來?」
ナヅキがどう反応すればいいのか言葉を選んでいると、夢來はその中の一つをおもむろにナヅキの口の中に入れた。
「ん…?」
「美味しいですか?もしかして、ナヅキさんお腹がすいてるのかと思いまして」
そうやって笑う夢來にナヅキは何をいう事もなく。ただその木の実を咀嚼して。
「ええ、おいしいわ。ありがとう夢來」
「えへへ」
「でも、人の口の中に急に食べ物を放り込むのはあまり感心しないわね」
ナヅキは少し悪戯っぽく夢來に言った。ちょっとしたからかいのつもりだったけれども、夢来は真面目にしゅんと顔を落として。
「ご、ごめんなさい…」
「ちょっとからかってみただけよ」
「え…?」
「まあいいわ。なんだか悩みもぶっ飛んでしまいそうに思えてきたわ。ありがとう。本当に」
「?は、はい」
夢来は何に関して感謝されたのかなんとなくわからなかったが、とりあえず返事をした。
そのまま二人は別れ、ナヅキは再び森の中を散策していた。
だが、やっぱり瀧山の事は頭の中から離れない。
(べ、別に変な意味じゃないけど…)
そう思っていた途端
「…っ!」
目の前でペガサス、スーさんが縛り上げられ、気につるされる状態になった。
赤い紐。それは見慣れたものだった。
ナヅキは一瞬慌てたものの、それに気づけばもうああ、またかというような表情で目で追える限りの紐の元を視線でたどる。
そうすれば、このような事態になっている元凶がいるとナヅキにはもうわかっているからだ。
「…た、き、や、ま、さ、ん?」
「ご、ゴメンナサイ」
瀧山が本当に頭の上がらない人物。それがナヅキだった。
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「まったく!なんっっっっかい間違えれば気が済むんですか!」
「い、いやおじさんちょっと間違えちゃった〜っていうかさぁ」
「それが問題なんです!」
数分後。森の中で正座させられた滝山はナヅキの説教を受けていた。
スーさんはバーン君が紐をほどいてくれていた。
ナヅキはそれを見て安堵するも、またすぐに瀧山に向き合って説教に戻る。
「ほっ……。大体ですね、前から何度目なのかって聞いてるんですかこの状況!こんの大ボケ狩人さん!」
ナヅキの言葉がもっともすぎて瀧山には返す言葉一つ見つからなかった。
それもそうだ。この事態が何度目なのかナヅキにも瀧山にも数える事ができてないのだから。
出会った当初もこのような状況だったのかもしれない。
「そ、それには何も返せないっ」
「はぁ…こうやって怒るのも何回目ですか。そうだわ、何かお詫びをしてもらうのもいいでしょうか」
「へ?」
「こうやっていっつもいっつもバーン君とスーさんは酷い目に遭ってるんです。何か…そうです、何かおごってくれたりとかしませんか」
「そ、それで許してもらえる?」
「今回はね?次は…どうしようか今から考えときます。次がないようにお願いしたいですけど」
ナヅキは睨みをきかせて言う。その視線に瀧山はこれまでの事を思い出して仕方ない…という風に項垂れた。
「うう…」
瀧山はそのままナヅキに連れられてモズクワへと向かったのであった。
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「で、何を買いに行くつもりなんだ?」
瀧山はナヅキに尋ねた。ナヅキは「ん〜?」と手に持っているチラシを見た後に瀧山の方を向いた。
チラシを見ていた時は普通の少女の横顔だったものの瀧山の方を向いた時にはいつものツンとした表情だった。
瀧山はもう少しナヅキの素の顔を見ていたいと思ったものの自分から話しかけておいてナヅキの話を聞かないのは失礼だと思ってナヅキの話に耳を傾けなくてはいけないとナヅキの方をきちんと向いた。
「どうしたの?まあいいですけど。そうですね…バーン君とスーさんの為の食べ物と…あとこれ」
「これって…パンケーキ?しかも男女ペア限定の特別企画?」
「そう。瀧山さんと行くのにはなんとなく納得できませんけど…」
「行きたいのか」
「うっ」
今までに見た事のないナヅキの顔にこれまで感じた事のない感情を感じそうになった瀧山だが、それは無視することにした。
ナヅキはばつが悪そうな顔をした後、開き直ってこう言った。
「そうですよ!好きですよ!好きで悪い!?」
突然叫びだしたナヅキに瀧山は吃驚するが、それよりも周囲からの視線がまず瀧山の感覚に入った。
瀧山は狩人だ。視線については通常の人間より感覚が鋭い。
ナヅキも流石にそれに気付いたのか、赤面して瀧山を殴る。
「ぐがぁっ!?」
「ふん、早くいきますよ」
「あ、ああ…」
バーン君とスーさんはご愁傷様。とでも言うように瀧山を見ていた。
「ここです」
「ここか、その店は」
「そうですね…あら、あそこにいるのは」
店の前についたナヅキと瀧山だが、店の中に見知った顔を見つけた。
ウサギの耳に白い髪の背の低い少年と、銀髪に花冠をつけた少女。
ツキシマとヴニーだ。
「あの二人も来てたのね」
「だな。じゃあ中に入るぞ」
「ええ」
そのまま二人は店内に入って行った。流石にバーン君とスーさんは連れていくわけにもいかなかったので離れたところで待ってもらっている。
愛想の良いメイドさんに案内され、二人はツキシマとヴニーの近くの席に座ることになった。
「およ、ナヅキちゃんだ!」
「あんたらも来てたんか」
「ええ。店の外から貴方たちの姿は見えてたわ」
「えへへ〜ナヅキちゃんのセンサーかな?これぞ友情センサーだよ!」
「ちがうわよ」
即座にナヅキに否定されてヴニーは「うう…」と甘えたような目で見る。
(うっそれは卑怯よヴニー…可愛いじゃないの)
そんなナヅキの心の中の葛藤は誰も知る由もなく。瀧山はメニューを見てナヅキに相談し始める。
「なあ、ナヅキちゃん」
「な、なんですか瀧山さん」
「どれにするんだ?」
「ああ、メニューですね」
ナヅキはメニューに目を通し、どれに用か悩んでいた。
(このストロベリーとブルーベリーのダブルベリーも捨て難いけれどチョコレートとマシュマロもいいわ…)
「あ、おじさんこれでいいかな」
「チョコレートとマシュマロ?」
「ああ」
一人ひとつ選ぶとして二人は選んでいたが、ナヅキは瀧山がまったくメニューを見ていなかったことに気づいた。
(まさか、瀧山さん私が食べたいの分かった?)
「なら私はこのダブルベリーにします」
「で、特別企画って何があるんだ、ナヅキちゃん」
「…ここの特別ホールケーキが無料で食べれるんです」
「へえ。ナヅキちゃんって結構甘いの好きだったりするんだ」
「…まったく、瀧山さんしか連れていけるような男性が身近にいないのがとっても残念です」
「それ、おじさん傷つくんだけど…っていうか、秋斗君とかいるんじゃ…」
「小崎君には枯葉ちゃんがいるじゃないですか」
「まあ、そっか…ツッキー君にもヴニーちゃんがいるしね」
何を言ってるのだろうと、ナヅキは言いながらもそう思っていた。
ただ瀧山と共に行きたいというだけの言い訳なんじゃないかと自分でも思ってしまうほどだった。
(って、誰がこんな人!)
「な、ナヅキちゃん?」
「何でもないです…とにかく!店員を呼びます」
「ああ、ごめん。すみませーん」
瀧山がナヅキが店員を呼ぼうとしたのを遮って店員を呼んだ。
そこは男性の方がやらないといけないと思ったのだろうか。
ほどなくして店員がテーブルの方に来て、二人は先ほど言った通りの品を頼んだ。
「それにしても、瀧山さん、もしかして気つかってくれたのですか?」
「へ?」
「…ただ、なんとなくです」
ナヅキは自分で何を言っているのだろうという感覚になりながらも頼んだパンケーキが来るのを待つ。
瀧山はナヅキが何を言いたいのかなんとなくわかった気がして「そうだな」と少し考えてこういった。
「ナヅキちゃんと俺がつながってたりーなんちゃっt」
「言いたいことはそれだけでしょうか」
瀧山的には少しふざけただけなのだろうがナヅキは少し赤面しながら瀧山の頭をたたいた。
それを近くで見ていたヴニーは「ナヅキちゃんすごーい!」と普通に歓声を上げていたが向かいに座っていたツキシマは「わぁ…大丈夫や?」と瀧山を心配していた。
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「ん〜おいしいわね」
「そ、そうだね…」
それからしばらくの時間がたって(混雑しているため店員さん達はとても忙しそうだった)パンケーキがテーブルに来た。
ホールケーキはまだ時間がかかるらしく、二人はまずパンケーキを食べていた。
「ナヅキちゃんこれも食べたかったんだろ?はい、あとはあげるよ」
「え、いいんですか?」
瀧山からチョコレートとマシュマロが乗ったパンケーキの皿を渡されてナヅキは少しキラキラした笑顔で瀧山の方を見た。
完全にパンケーキに夢中になっていて瀧山の目の前にいる事すら忘れかけているかもしれない。
普段見れないナヅキの表情に瀧山はなんとなく夢中になっていたのかもしれない。
食べ始めるとヴニー達の方もそっちで夢中になっていて話しかけてくることもなかった。
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「今日はありがとうございました、瀧山さん」
「いや、今日はいつものお詫びってことだっただろ、いつも迷惑かけてごめんな」
「本当ですね」
「つ、次はないってきっと…」
ナヅキはジト目で瀧山を見る。
これは絶対次もある。ナヅキはそう身構えたのだ。
バーン君とスーさんを連れてナヅキはそのまま瀧山と離れた。
「…はぁ…」
瀧山はどうすればこのような事にならないんだろうと少し考えたが、きっと次にはまた同じことをしているのだろう。
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次回予告
ヴニー「どもどもっ!次回予告のヴニーちゃんだよ!待ってた?待ってたかな?や〜っとのことで更新だよ!今回の話はナヅキちゃんとタッキーさんの話だったよ!次の話は大体同じくらいの時間での私とツッキーの話だよ!どんな話になるかはお楽しみに!でも次っていつになるんだろうね?」
Written by sinne