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「ヴニー?」

カーネは、カウンターの隣で眠そうにしているヴニーへ向けて呟いた。
この前の瀧山と真音の一件の後、ヴニーはカーネの家に泊まっていたのである。

「なに〜?カーネ」

「アンタ仕事は?」

「一段落したって言ったじゃん!」

「でもこんなに船をあけるのは…」

『ヴニー!どこだー!』

『ヴニーさん!どこですかー!』

外からヴニーを探している船員であろう声が聞こえてきた。

「…」

「今のを聞いても、ヴニーは暇人といえるのかしら?」

ヴニーの顔をカーネが覗く。
ヴニーの顔には冷や汗が少々流れていた。
「イ、イッテキマス…」

ヴニーは片言気味に言った。

「いってらっしゃい」

カーネは溜息をつきながら店を出て行くヴニーを見送っていた。

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「さてと…ん?」

ヴニーが店を出て一番に気付いた事は、いつもは楽しそうな声でにぎやかな町が、少し不安そうな声でざわざわしていた事だった。
さっきまで晴れていた空も、心なしか曇っているようにも見えた。
「どうしたのかな?」

「あ、ヴニーさん!大変です!」

「どうしたの?」

ヴニーを見つけた船員は、血相を変えながらヴニーに言った。

「それが…草原の海に大きな化け物が出てきたんです!」

「大きな化け物…?」

ヴニーは船員に連れられて草原の海の近くに来た。そこには、空を覆うような大きさの巨大な化け物がいた。

「何なの…あれ…?」

ヴニーはその状況を見て、ふいに呟いた。
暴れている化け物は逃げ惑う人々を大きな触手で捕らえようとしていた。

「戦える者をすぐに呼んできて!ヴニー!」

「しーちゃん…それに、瀧山!」

戸惑うヴニーの後ろから駆けつけてきたのは真音と瀧山だった。
瀧山はすぐに赤い紐を使い、巨大な化け物を捕らえようとしたが…

「…大きすぎるし暴れてるから捕まえにくい…真音!」

「分かってる、もうすぐ書き終わるから!」

「…しーちゃんたちが頑張ってるうちに…」

ヴニーは自分が知る限りのこのモズクワにいる戦闘経験のある人物を探しに行った。

「はああぁぁっ!」

真音は札を獣に投げる。その札は巨大な化け物の動きを封じた。

「今の内に、瀧山!」

真音の声に瀧山は頷き、赤い紐を構え、巨大な化け物を赤い紐で縛りつけた。

「それにしてもっなんだこいつ…おじさんびびっちゃうぞ…」

「びびるんならびびってなさいよ!とりあえず、あたしの札で、何とか攻撃を加えていくわ!」

周りにいた人々は逃げ惑い、巨大な化け物を前に、呆然と立ち尽くす者もいた。

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「カーネ!大変!」

ヴニーはカーネの店に戻ってきていた。

「分かってるわ。草原の海に巨大な化け物が現れたんでしょう?」

カーネは枯葉と秋斗をつれ、外に出る準備をしていた。

「今、しーちゃんと瀧山が何とかしようとしてるけど、いつまでもつか…」

「私達も行く!」

「…」

不安そうなヴニーに、枯葉は自信ありげに言った。秋斗も、黙ってはいたが行く気満々のようだった。まあ、枯葉が行くからであろうが。

「早く行こう!」

「「「うん!(ええ・ああ)!!」」」

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「ナヅキさん呼ばないとかな…」

真音と瀧山はなんとか巨大な化け物に攻撃しつつ、住人への被害を抑えようとしていた。

「た、たすけて…!」

その時、幼い少女のものと思われる声が聞こえてきた。とても震えていて、今にも泣きそうな声だった。
真音はその声の人物を見つけ、すぐに駆けつけようとするが、足に巨大な化け物からの攻撃が飛んでくる。

「うっ…!」

「真音!」

「…あたしは…でも、あの子が…」

瀧山も真音の元へ駆けつけようとするが、今手を離すわけには行かなかった。
少女に巨大な化け物の攻撃が当たる直前…何かしらの影が横切り、攻撃があたったと思われる場所には、もう既に少女の姿はなかった。

「あれは…ナヅキさん…」

「まったく、草原の海に巨大な化け物が出てきたと聞いてやってきてみたら…」

そこには、幻獣使いのナヅキが立っていた。
ナヅキの傍らには先程の少女を背中に乗せたペガサス、スーさんが居た。
一方のワイバーンのバーン君は巨大な化け物とのにらみ合いになっていた。

「大丈夫、此処から逃げれる?」

「うん…ありがと。お姉さん」

ナヅキは少女を心配するように手を握って言った。
少女はナヅキにお礼を言うと、急ぎ足でこの場から逃げて行った。

「これで良かったかしら?真音ちゃん」

「うん…十分…うっ!」

ナヅキは真音の方を向いて言った。
真音は立ち上がろうとしたが、先程の傷のせいで動けない。

「真音っ!」

「真音ちゃんは休んでいなさい。ここは私や瀧山でなんとかするから」

「でも…」

真音は何か言いたげにナヅキを見つめる。

「しーちゃん!大丈夫だよ!」

そこに、ヴニー、秋斗、枯葉、カーネがやってきた。

「まったく、こんなにボロボロになっちゃって」

カーネは真音の元に駆け寄った。

「私とアッキーが来たからにはもう大丈夫!」

枯葉は胸を張って自信満々に言う。

「…ごめん、皆」

「さて、行くわよ」

ナヅキは巨大な化け物に面と向かった。

「止まって!」

ナヅキを襲おうとした巨大な化け物に向かって枯葉が叫ぶ。

「バーン君、スーさん、お願い!」

ナヅキの声に応えたバーン君とスーさんは頷くように首を動かし、その間に瀧山は枯葉の言霊で動きの止まった巨大な化け物を縛り上げていた。

「まったく、まーちゃんこんなに怪我しちゃって!」

「っちゅうか、何で俺まで呼ばれたんや?」

「とにかく、負傷者を手当てしましょう!」

沙羅架は真音の元へ行き、ツキシマは夢來に連れられ、周辺の負傷者の手当てをしていた。

「サラ、あたしは自分でなんとか手当てできるから、他の人を手当てしてあげて」

真音は自分のもとへ来た沙羅架にそう言っていた。

「まーちゃん…」

沙羅架は少し不安そうな顔をした。

「しーちゃんはもう少し甘えるべきだよ」

その後ろから、ヴニーが真音に対してそう言った。

「そう…なの…かな…」

そう言って、真音は疲れたのか、その瞳を閉じた。心なしか、何かを呟いたように見えたが、何を言っているのかまでは分からなかった。

「まーちゃん!?」

沙羅架は瞳を閉じた真音に向かって叫んだ。

「大丈夫です。少し疲れて眠ったようです」

近くに来た夢來が、真音を心配する沙羅架に言った。

「お願い、止まってて!」

「ぐうっ…」

「くそっ!」

秋斗も短剣を握り、応戦するがまったく歯が立たない。
枯葉の言霊と瀧山の赤い紐をもってしてでもそれは動きを止めるので精一杯だった。

「どうしよう…こんなの倒せるのかな…?」

枯葉は少し弱気になってそうつぶやいた。

「弱音をはかないの!特に枯葉と秋斗!」

そんな枯葉に対してカーネはそう言う。

「っていうか何で俺まで言われてるんだ!」

「…喋ってないでやってくれないと、おじさん結構…きついんだぞ…」

そういう瀧山は本当に辛そうにしていた。それもそのはず、瀧山はこの巨大な化け物が現れてからずっと応戦しているのだ。疲労もたまっているであろう。

「もうっ!いい加減にしてはやくおとなしくやられてよっ!」

ついに痺れを切らした枯葉がそう叫んだ。
その言霊に応えたのか、巨大な化け物に振り下ろされた秋斗の短剣が巨大な化け物に刺さり、そのまま倒れた。

そして、それは黒い墨の様な物になって崩れ落ちた。

「…や、やった?」

枯葉は目をぱちくりさせて言う。

「正確には枯葉の言霊ね?」

カーネが呆れる様にして言った。

「まあ、でも倒せたからいいんじゃないのかな?」

ヴニーは枯葉をフォローするようにして言った。

「お、おじさん疲れちゃったよ…」

瀧山はその場に崩れ落ちるようにして倒れた。

「真音さんもまだ寝てますしね」

夢來は疲れて寝たままの真音を見て言う。

「仕方ないから真音は今日私の方で預かるわ」

溜息をつきながらカーネは言った。

「じゃあ私も…」

それに便乗してヴニーがカーネに近付くが…

「ヴニーは船に戻りなさい」

「え〜〜〜〜!?」

カーネはばっさりとヴニーを切り捨てるようにして言った。

「カーネのばかぁっ!」

ヴニーはそう言って船の方へと消えて行った。

「でも、さっきのは一体…?」

ナヅキは疑問そうに首を傾げて言った。

「それは私の方で調べてみるわ。と言っても、こんな炭みたいに崩れてしまった後では何も分からないかもしれないわ」

「もしかして…私のせい…」

枯葉は自分を指差しながら言った。

「枯葉のせいじゃないと思うわ。誰がどう倒してもこうにしかならかったかもしれないと思うのよ」

カーネは枯葉の言葉を即座に否定して言った。

「とりあえず今日は疲れた方お開きにしようよー。ボクももう寝たいんだけどー?」

沙羅架は眠たそうにあくびをした。

「そやな〜。ほな俺も帰らせてもらうわ」

ツキシマはもうこの場を去ろうとしていた。

「あ、そういえば瀧山さんは真音さんを運んでください。真音さん起きないんですよ」

「え、でもおじさん疲れて…」

夢來の言葉に瀧山は疲れていることを主張しようとするが…。

「あら?頼むわよ、瀧山。女の子一人背負えないなんていわないわよね?」

ナヅキが少し怖い笑顔でそう言い放っていた。

「お、おじさん頑張る…」

瀧山はそう言って真音を背負った。

「本当はツキシマに頼もうかと思ったんだけど…ツキシマが帰っちゃったからね…」

枯葉が笑って言った。

「じゃあ帰りましょうか。私たちの家に」

カーネはそう言った。先程まで曇っていた空は、心なしか晴れて見えてきた。

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ヴニー「次回予告担当のヴニーだよッ!いや〜それにしても今日はとてもいそがしかったね!次の話は今回の事件の後の話だよ!え?当然だって?ま、いいや。それでね、次回はカーネの家で起こる話だって!ヴニーもいるかな?次回もよろしくね!じゃ!…ふああ〜疲れたよ〜」

Written by sinne



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